アバンギャルド

ごきげんよう!ひとりです。

アバンギャルド、フランス語で「前衛」って意味です。前衛的な、先駆的な、革新的な。もともとは軍隊用語だったけど、今では政治や芸術など様々な分野で使われる言葉なんだって。口語的には、「なかなか攻めているね」とか「尖っているね」ってニュアンスになるのかな。経験上、心と体が危険な状態にあるとき、思考がアバンギャルドになる気がします。人間も動物なので、いざとなったら防衛本能が働くってことですね。誰しも、アバンギャルドでいないとやっていられない時があるんだと思います。周りでトゲトゲしている人間がいたら、「この人はそういう時期なんだ」って優しく受け入れてあげられるといいですよね。

 

眠れない夜

「誰かの不機嫌も、寝静まる夜さ。バイパスの澄んだ空気と、僕の町。」

キリンジの『エイリアンズ』です。ナイトドライブで流したい一曲ですね。私はこの歌を聴くといつも、夜の高速道路とサービスエリアを思い浮かべます。深夜の刹那みたいな。実にエモーショナルです。きのこ帝国の『クロノスタシス』なんかも雰囲気が似ていますね。映画だと『ちょっと思い出しただけ』が同じような感じで、胸がギュッてなります。主題歌はクリープハイプの『ナイトオンザプラネット』。これもまたノスタルジックで、雰囲気に酔える曲。『花束みたいな恋をした』のキラキラフィルターを外したような映画です。めちゃくちゃリアルなの。しばらく余韻に浸れるエモい作品なので、是非見てみてください。

 

夜といえば、会社を辞めてすぐの頃、全然眠れなくて。神経が興奮していたんですかね。気分はダンボの悪夢のようで、気味の悪い夜が続きました。全ての生命体が眠りについている中、自分だけが起きているんです。なんだか世界に自分だけが取り残されたみたいで、怖かったな。きっと当時の心境も相まっていたんでしょう。今では夜が心細いなんて全く思わなくなりました。だから、あの時に感じた気持ちは貴重な経験です。辛い時って神経が研ぎ澄まされて、鋭くなっているんだと思う。その時限りの感性ってやつ。どうせ辛い思いするなら、その時しか見えない世界を心に焼き付けるのもいいかもしれませんね。ほとんどのことはあとで笑い話になります。まあ今でも自律神経が悪戯して眠れない夜ってありますが、そんな時は私の不機嫌が目を覚ますだけで、今はもう特に変わりない平凡な日常。脱アバンギャルドってことです。

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美を崇拝する

私がパワハラにあっていた時、見える世界は美醜のコントラストが強いものでした。私の元職場は典型的な女性社会で、新人だった私の教育指導員も女性でした。まあ意地悪でしたね。業界自体に法律で定められた細かいルールがたくさんあって、その上に会社が用意した独自のプラットフォームと更に細かいルールが、宇宙のチリのように散らばっていました。もう本当に気が狂いそうになるほど細かいの。中でも、会社のルールなんて、教えてもらわないとわかるわけがない。郷に入れば郷に従えっていうけど、郷を知らなければ郷に従えないわけですよ。そこを突いて、“仕事を教えてもらえないいじめ”にあいました。私は自分のミスが一番許せない性格なんですけど、そこで一生分のミスを経験しましたね。

おそらく、私に勝っているところがそこでの経験と知識しかなかったんでしょう。妬み嫉みってやつです。そんな醜悪な世界を生き抜くためのアバンギャルドな思考が、“ルサンチマン”でした。ルサンチマンっていうのは、ニーチェが提唱した奴隷道徳のことです。簡単に言うと、強者を悪、弱者を善とみなす価値観のこと。主語がでかいですね。ユダヤ人の選民思想をイメージしてもらうとわかりやすいかな。要は、自分に降りかかる理不尽な不幸を正当化するための考えです。ニーチェはこれを「嫉妬心からくるただの負け惜しみだ」って言って批判しています。ニーチェの言う通り、自分に降りかかる不幸がいくら理不尽でも、他人の幸せを叩き落していい理由にはなりません。

私はこのルサンチマンを胸に、日々奮闘していました。「あいつのやっていること、ルサンチマンじゃん!」って。例のパワハラ指導員を「なんて醜悪な人間なんだろう」と思う反面、そんなに嫉妬される私は「なんて美しい人間なんだ」って思うようになりました。言葉にすると可笑しいですね。でも当時は、自分が価値のない人間に思えちゃって、一生懸命自分の価値を探していたんです。それからは心身が弱っていくのに比例して、「美」への執着心が強くなっていきました。美を崇拝すらしていましたね。美しいものこそ正義って。この時期はジョージ朝倉先生の作品にブクブク溺れて、谷崎潤一郎の『刺青』に共感しました。悲しいことに、今はあの頃の自分の気持ちに共鳴できなくなってしまった。谷崎潤一郎も、今はもうよくわからない。魔法が解けてしまったみたいです。これが私の“その時限りの感性”でした。

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最後に。一生分のミスを経験したってことは、これから先の人生、そんなにミスすることがないのかもしれませんね。ちなみにパワハラ指導員の女性は接客部門にいたんですが、勤務先をGoogleマップで調べると、口コミにその人を名指ししたクレームが数件残っているんです。配属が言い渡されてすぐにその事実を知り、きな臭いと思ったら案の定でした。ね、グロテスクでしょ。掘れば掘るほどグロテスク。

以上、ひとりごとでした。